世界を救う5つの方法

 BBCでまた温暖化の特集番組がありました。今回のテーマは「温暖化を防ぐための5つの取り組み」についてでした。どれも今のところ非現実的なものばかりでしたが、世界中の研究者の最先端の取り組みを紹介しており非常に興味深いものでした。今回もビール片手にボーッと聞いていたので、ちゃんと覚えてない部分もあるのですが、おもしろい話だったので整理しておこうと思います。

 1つ目は、宇宙空間にガラスのパネルを展開し、地球に届く太陽光を減らすという案です。ロケットを打ち上げて、非常に薄いガラスパネル群を地球と太陽の重力が拮抗するラグランジュポイント(L1点)に展開するというもの。ただし、非常に薄いとはいえ、相当な量が必要で、ロケットの打ち上げ経費としてはアメリカのGDPの20倍掛かるとのことでした(ダメじゃん)。ただ、安価に打ち上げるために新たに考えられている方法がまた興味深いのです。ヒマラヤなどの高山に縦坑を掘り、ミサイルの様な感じで打ち上げるという案なのですが、なんとその推進力にリニアモーターカーのような電磁誘導を使うというのです。確かにこれが実現すれば大幅にコスト削減になるかもしれませんが、これの建設もまたたいへんな話だと思いました(笑)

 2つ目は、負の放射強制力を持つ下層雲を増やそうという案です。下層雲の増加は、短波放射の地表面への到達を減らし、温度上昇を緩和する効果があります。そこで、雲の基となる雲凝結核を人工的に増やそうという取り組みです。人工的に雲を作る取り組みは古くから行われていますが(飛行機から凝結核になるものをばらまいたりとか)、今回紹介されていたものは、海水の噴霧機を取り付けたボートを山のように展開し、海塩粒子から下層雲を作るというものでした。ただ、今この瞬間も世界中の海で波しぶきから海塩粒子が作られているわけで、全球的に意味をなすほどの量はボートの展開程度では作れないのではと思いました。もしかしたら、領域的にある都市の冷却化を狙った試みなのかもしれません。

 3つ目は、負の放射強制力を持つ硫酸塩(参考資料:CCSRのHP 図1)を成層圏にばらまくという案でした。具体的には赤道域でロケットを飛ばし、そこから硫酸塩を噴霧するというものでした。専攻のセミナーでよく聞く話ですが、大気循環的には赤道域から成層圏に入り全球に巡っていくので効率的だという話でした。ただ、硫酸塩が増えれば酸性雨の増加やオゾン層の破壊にも繋がるかもしれないので、簡単ではないかもとのことでした。紹介してたのは、ドイツのMax-Plankの研究者で、オゾン層破壊の研究で有名な方でしたので(名前は失念)、もしかしたら一部の人は良くご存じの方かもしれませんね。まぁ、ニヤって感じで楽しそうに取材に答えてたので、この壮大な案は、もしかしたら彼の"趣味の研究*1"かもしれません。

 4つ目は、自分の研究に近いところですが、海洋の植物プランクトンを増やして二酸化炭素を吸収させるという案でした。植物プランクトンの増殖を助ける尿素を撒くという話でした。ただ、これも全球的な規模で展開するというよりはオーストラリアでの試み的な研究の紹介というところでした。

 5つ目は、人工的な木を作って二酸化炭素を吸収させるという案でした。これは、木と言っても大気を取り込んで二酸化炭素を分離して放出する装置のことです。それをたくさん展開するというものですが、個人的な感想としては、一度拡散してしまった低濃度のものをかき集めるのは非常に困難な話なので(言うならば一度水に溶けたインクを回収するようなもの)、これをやるぐらいなら、放出源での排出を少しでも下げる方が効果的かなぁと思いました。ちなみに、貯めた後の二酸化炭素をどうするかというと、海底の岩盤にドリルで穴を堀りそこに貯留するというものでした。二酸化炭素の貯留方法も今回の方法以外に色々あるようで(日本で同室のM先輩からの耳学問ですが、深海底の高圧で液状にして貯留したり、深海に薄く拡散させたり、陸の帯水層や廃油田に入れたりなど)技術間の相互比較ということも重要な問題だと感じました。

 いずれも、即実用とはいきませんがこういう試み的な研究をやることで、初めて問題点や今後の進むべき方向性(代替の方法も含めて)は浮き彫りになるので、批判するのは簡単ですが、こういう研究を気長に見守る懐の深さもスポンサーには重要だよなぁと思った次第でした。

 ところで、偏見かもしれませんし、予算・国策等から無理なのかもしれませんが、日本の科学番組の場合、せいぜい国内の研究者にちょこっとコメントを求める程度で、世界の最先端の取り組みを紹介するという感じにはなかなかならないのが残念だなぁと思います。日本の研究者が劣るということではなく、一国ですべての分野をカバーできるわけもなく、海外でしかやられていない研究も数多くあると思うので(特に今のところ現実味はなくとも夢のある研究など)、自前でなくとも良くできた番組は是非輸入して欲しいものです。

*1:別にそれで喰っていこうとは思っていない